――波の音。



海岸から続く坂道を、軽い足取りで歩く。



今日からここは、私の街になるんだ。

ここで、高校生活という大青春時代を過ごすんだ!



思わずスキップになってしまった足を止めて、振り返る。



夕陽に照らされた海。

遠くに聞こえる踏切の音。



一人で暮らすことを決めたのは、中2の春。
大好きだった先輩が、この街の高校に入学すると知った時だ。

バスケ部だった先輩に憧れて、私の中学生活は先輩一色だった。
マネージャーとして、先輩の傍にいたけれど、想いを伝えることはできなかった。



実家から遠く離れたこの高校を受験して、一人で暮らす宣言をした私に、しばらくの間両親は思い止まらせようと説得した。



しかし、恋する女の子は強いのだ!



私の強い希望に、ついに両親は折れた。



それでも、アパートで一人暮らしは危ないからと、両親は、家の部屋を下宿として提供しているところを選んで勝手に決めてきた。

何でも、大家さんが上品な女性だったってんで、即決したらしい。



まぁ、ワガママ言ってこの生活を勝ち取った娘としては、これぐらいは多目に見るか、と素直にそれを受け入れた。




「ここか…」



海の傍に相応しく、白い壁の素敵な家。




とにかく、これからはここが私の家。



恋する甘い高校生活は、ここから始まるのだ!




私は意気揚々と、玄関のチャイムを押した。