何か話さねばと思う。
しかし、ただでさえ口下手である私が、気の利いた会話で、盛り上げる事など不可能だ。

しかも目の前にいるのは、見覚えのない、私の記憶を持つ奇妙な女性なのだ。

私は沈黙の気まずさから逃げるように彼女から視線を外すと、再び江の島から漏れる淡いオレンジ色の灯を見た。
先程の鳥たちは、その灯に吸い込まれるようにして消えた。

「あの島の杜が、あの鳥たちの故郷のようですね?」

口を開いたのは、彼女の方だった。

「そのようですね、トビでしょうか?」

本当は飛ぶ姿形、一目でトビでない事くらい分かっていたが、私はそう言った。

「あれはトビじゃないわ」

どうやらそれは、彼女にも分かっていたらしい。
私は彼女に対し、誠実でなかった事を心の中で恥じた。


「お名前を聞かせて頂けませんか?そうしたら、何か思い出せるかもしれない」

私はもう一度彼女をみると、ストレートに聞いた。