鎌倉物語

 


私の記憶は完全に取り戻された。

しかし、問題はここからである。
ここにいる永里結子は、私を恩人だと述べているのだから



――と、

「じゃあ、私、帰ります!」

私の隣に腰を下ろしていた永里結子が、風に靡くスカートの裾を抑えながら、突然勢いよく立ち上がった。

「え!? あぁ…?」

「きっとまたここに来れば、四宮にさんに会えますわね?」

この数分間、思考を巡らせ「正解」を模索しつづけた私と、私と会った事で何かすっきりとした表情を見せる彼女。

「まぁ、この辺りは私の散歩道ですからね。いつかまた会う事もあると思いますが……」

対称的すぎるふたりに、時の流れの速度は違い過ぎたのか。


作家である以前に、一人の大人の立場からして、若い娘を家に帰すべき時刻を迎えていた。