教室中を埋め尽くす甘い香に眠気を誘われる中、初香は大きな泡立て機で生クリームを膨らませていた。

普段やり慣れていない初香の腕はけ怠さ満開で、頻繁に泡立て機を持ち替えている。

「初香?大丈夫?」

隣で小麦粉の分量を計っていた親友の百合(ユリ)が、初香の不器用さに呆れながら尋ねた。

「大丈夫!・・・多分。混ぜるだけなんだから任せてっ!」

フンッとガッツポーズを決めた初香の泡立て機から、固まり始めた大量の生クリームが飛び散り、隣の班へも飛散する。

「ちょっ、初香っ!飛んでるって」

「きゃあぁっ。ごごごめんっ!百合ちゃん大丈夫!?」

慌てて百合に飛び付き、置いてあったフキンを引っつかむが、即座に百合に阻止された。

「これ、さっき卵拭いてベタベタ取れないやつだから」

「ひゃー!ごめんっ!」

卵を落とした張本人が、忘れてましたと青ざめる。

そして散乱した生クリームを指差され、初香は慌てて隣の班に駆け寄った。

「ごめんねっ、トコちゃんっ、汚れてない!?」