休憩室に入った途端の
妙な空気を読み、
俺はサングラスの奥から
鋭く社長を見た。


「あの、事務所に籍を
置かないと付き人は
続けられないって・・。」




やっぱ、そう来たか。
相手が子供だと思って。

俺自身が信用した付き人を
雇い、俺がギャラを
支払えばいいだけじゃん。



「・・そう。コレ
あったかい内に食べない?」

「ええ・・。」


目を反らして・・
何を脅されたんだ?

俺はコーヒーを取ってくる
からと云い、彼女を置いて
社長とドアの外へ出た。



「あれはヤツが勝手に
こさえた借金でしょう? 
彼女には関係のない話だ。」

「なあに? 聞いてないの?」

「何を」



コーヒーサーバーを置いて
彼に振り向いた。
何か意味深に
笑いを浮かべやがって。


「坂巻はねえ・・彼女に乱暴し
ようとした不良達をボッコボコ
にして捕まったのよ。」

「それでシアを揺さぶる
つもりですか。彼女の良心に
訴えて? 呆れた話だ。」


あの性格だ、
彼女も揺らいだ筈。

それにしても、
とんだヒーローだ。
助けたはいいが、後が悪い。


「過剰防衛の場合は治療費の
何割かを過失相殺して支払わ
なくちゃいけないのよね。」


机の上にあった電卓を手に
社長は1人頭の慰謝料の額を
弾き出して俺に見せた。

数人と云ってたな・・。
ナメてた、そんなデカイのか。
ヤツめ、全員半殺しに
したんじゃない?



「こんな事は言いたくなかった
けどさ。ウチは女の子はどれも
パッとしないじゃない?
だからどうしても彼女みたいな
いないタイプが欲しいワケよ!」


自分で言うのもなんだが
この会社は俺が来て
成り上がった、云わば
弱小プロダクションである。



「とは云え俺は彼女との同居を
止めないし付き人をクビにする
気もない。それにあの子を人前
に出すなんて無謀もいいとこだ。」


「福利厚生も
ちゃんとするからぁ~。」

「無理。」



昨日の収録アトを
見せてやりたかったぜ。
筋肉が硬直して車に
乗せるのも大変だったのに。