「海は
南じゃなきゃイヤなんだ。」


・・・ジュードが連れてきた
ホテルは市内にあり、
海は遠くにしか見えない。

付き人を待たせて自分が
フロントに行くなんて・・
普通、考えられない。


「さ、行くよ。」

「あ、はい。」


エレベーターは最上階へ。
なるほど、彼はここの
インペリアル・スウィートか。

確か部屋に
グランドピアノが置いてある筈。

案内係が開けたドアの向こう。
明るくて相当広い、
ゴージャスな部屋。

一泊、60は下らないだろう。



「では、
私も部屋に行きますので」



そう云って出した手。

・・・無視?

違う、見てなかったのか。

彼は歌をご機嫌に歌いながら
バスルームに消えて行った。

待つしかなさそう・・だった。

仕方なくクッションを取り
抱いたまま
ソファに腰を落とした。


"嫌なら六日待って
NOと云えばいい後はお前の
好きに生きりゃいいだろ?"


「・・・・。」


さっきのジュードの言葉で、
私の中、何かが
切り替わった気がしていた。


"私が家庭を顧みなかった
ばかりに母さんは勝手をして
お前を生んだ"

"だから父さんは
お前の面倒を見なきゃならん"

"父さんにも
新しい家族ができた。
あとはお前の好きに生きろ"


物心ついた頃から
聞いてきた父の声。
あの時・・それが
頭の中で鳴っていた。



ドコヘデモ イクガイイ



さっきは、自分でも
なぜこんな事を言い出して
しまうのか解らずに・・

気が付いたら
ジュードに殴られていたのだ。

ああ、目の周りがジン・・
と痛い。夕べは夜中に目が
覚めてそれからずっと
眠れなかったから。


「・・・?」


目を瞑っただけのつもりが
眠ってしまったらしい。

肩を揺らされた気がして
はっとなる。