「・・ええ、遠慮なさらず。」


シアが目を丸くしたまま
そう答えるとシワシワの顔が
ボッと一気に赤く染まった。


後で聞いた話、
会長が何人かいる候補者から
鶴の一声で
シアを抜擢したそうだ。


「ランチでも一緒にどうかな」


それにしても都内にこんな
場所があるなんて。

会長が軽ーく、云うから
着いて来て見れば。


目茶苦茶、シキリの高い
料亭に連れて来られた。

お付もいないし、
気楽にする様に云われたが
そういう訳にも。

ところがこの老人、
話してみると全然、
古臭くない。

付け刃のようなボロもでない。
きっと普段から
若い連中と話をしてる。


「下に降りてごらん。
綺麗な錦鯉がいっぱいいるよ。」


中庭付きの座敷だ、
下には人口の小川が流れてる。

此処で泳いでる錦鯉の値段は
最低でも一匹、
百万はするらしい。


手を叩いたりして
鯉を見てるシアを
目を細めて老人は眺めてる。



「ほんに無口な・・不思議に
ブアイソでもなし。」



そして俺に向き直ると
ニヤリと笑った。



「ええのう、
ワシもあんなコと
一緒に暮らしてみたいわ。」



噂には聞いている様だった。
俺はその件で
絶対言い訳はしない。



( 相手の女性に失礼だ )



ふと思った。
ここまで本気だったのかと。

傍に置いておきたい、
手放したくないんだよな?

そして業界にも
深入りさせたくないんだ。

それをチラチラ
見せびらかすから
こんな事になっちまったんだ。

その結果、
シアから笑みを奪った。

俺は契約中と云う言葉を
言い訳に彼女を
良いようにしていた・・。


サクヤは・・いろんな意味で
俺にも腹を立てたろうな。



「そう云えば何やら
"貯め撮り"してた様だが?」


俺はハッとなった。
この企画がある間、
シアの画を使う。

事務所は彼女が契約を
結ばない時の事を
考えてるんだ。

あの社長のことだ、
さては付き人でさえ
やらせない気でいるんだろう。

そんなに俺を
怒らせたいのか?