「気に入っちゃったンだ
もんねぇ・・?」


ふー、と困った様子で
社長の椅子に戻った。

ほっといてくれたら
困る事もないだろうに。

この社長とは
ソロになってからの仲だ、
俺と云う男を
知った上でそう呟いたのだ。

茶色い紙で巻いた
煙草に火を着け、机の中から
帳面を取り出してる。



「・・坂巻君、
ウチに借金あるからさぁ。
チャラにしてやるから、
彼女をウチへ移籍させろって
言えば聞くんじゃない?」


「借金? 何でそんな金を?」


「路上で喧嘩してね、相手
数人に大怪我負わせたのよ。
過剰防衛ってヤツで
保釈金積んでさ? 
出た迄は良かったんだけど。」



保釈金なら返金されるはず。
治療費の額がデカイらしい。

実際ヤツでなくとも
絡まれたりする事は稀にある。

無口な男だが、
何か因縁でも着けられて
ついハデにやっちまったのか。

そんなヤクザな坂巻にとって
恐らくシアと云う女は
都合のいい玩具でしかない。

ヤツは金に繋がる関係しか
持たなそうだ。

彼女を追い払ってまで
あの顔黒ライターを
可愛がってヤってるのも
自分を売ってくれる、良い本を
書いて貰う為だろうし?



「バカを見るだけだ・・。
シアはヤツの所から
離れたがらない。」

「離したいクセに~。」

「それに・・云ったでしょ?
対人恐怖症だって。
付き人以外、
彼女は使えませんよ。」



揶揄ってんじゃねえ・・。


社長の目の付け所は
確かに良い。
でも売り方が
いつもワンパターンだ。

何をやらせるかなんて
お見通しである。

どうせ水着を着せて
イメージ・ビデオ、
それが売れたら
今度は写真集でも
グアムで撮るつもりだろう。

だが
グラビアなんて冗談じゃない。

本音を
俺と云う男に言わせれば、
グラビアなんて
風俗と変わりない。

間接か直接かの違いだけだ。

世の中の男達がシアを
見ながら利き手を使って
ハアハア云ってると思ったら
ゾっとする。



「じゃ・・、
本人呼んで聞いてみましょ?
ヤル気があるなら
交渉してみるから。」