"恋愛は自由だ"と云った
シアの中では俺との事は
契約中の情事でしかない。

それがハッキリと読み取れて、
俺はどこか
傷付いたんだと思う。


・・・俺も勝手だ。


昼過ぎにはレギュラー番組
収録の為に
こちらに戻って来ていた。

スタジオ入りして暫く、
ツアーから帰って来てた
サクヤと久しぶりに会った。

リハ前の、
出演者達の雑談タイム。


「シア」


シアにとっては
見慣れた男が肩を叩く。

俺はマネージャーと
音楽プロデューサーを交え
談笑中、
そちらが気になって仕方ない。


「どっち?」


彼女に左右のコブシを
突き出すサクヤ。


「こっち。」


指差して当てたコブシを
開くとキャンディが。

その包みを解いて摘み、
サクヤが
彼女の口元まで持って行く。


「ア!」


シアが自然と口を開けた途端、
素早くUターンで
自分の口に放り込んでいる。

飴玉を口の中で
もごもごさせながら

"引っ掛かってやんの"

そう云わんばかりに彼女を
指差し、
大人げなく一頻り笑ってた。


「ウーソ。ほらっ。」


口を一文字に結んだままの
彼女の手を取り、
両手の平いっぱいになるまで
袋からキャンディをザァッと
流し込んだ。


"ごめん、ごめん"


そんな感じで背後から
自分よりかなり下にある頭を
ぽんぽんと軽く叩いている。

俺を含めた周りがそれを
ポカンとして見ていても

彼は気付いていないのか、
サングラスの下の顔は
涼しいものだった。

まるで
彼女を許しきっている彼が
嫉妬なんて
覚える事はあるのだろうか?

彼は・・坂巻に抱かれる
彼女を想像した事が
あるのだろうか・・?


約二週間後に迫っている
シアの返却日。

俺はサクヤのようには
なれそうもない。