夜、7時半を回った。


ガチャ、ガチャ、ガチャ


こんなに硬い感じの
鍵だったかな?

そんな事を思いながら
マンションの自分の部屋に
戻って来ていた。

先にラフィを降ろしてやると
靴も脱がないうちに
訪問者がベルを鳴らす。


「はい・・、きゃ・・!」

「シア・・何所行ってたの?
凄く心配したんだから・・!」


鍵を開けた途端
不躾に入って来るや否や、
訪問者は私を抱き締めてた。


「シア・・? どうかした?」

「あの・・。」


唖然として首を傾げる男は
目を大きく見開いて私を見た。


「どちら様・・?」

「え・・? 」


抱いていた手を放し、今度は
向き合って両肩を掴んで顔を
覗き込むのだ。


「ごめんなさい・・私、近頃
ずっとこんなで・・あの・・
私たち、お友達でしたっけ?」


「何言ってんだよ・・シア?
俺だよ・・? 禅だ・・!
カレシも忘れちゃったのか!?」


今度はぐらんぐらん、
その肩を前後に揺らし始めた。


「・・カレ・・シ?」


カレにとって私は彼女らしい。
そんな
泣きそうな顔で言われても
・・・やはり実感はないのだ。


「玄関先というのもナンなので
どうぞおあがりになって・・?
コーヒーでもお入れしますから。」

「あ・・! じゃ・・
ちょっと待って。部屋から
美味しいお菓子取ってくる。」


意気消沈したのも束の間、
彼は一旦、部屋を出て行った。

どこまで御菓子を
取りに行っていたのか?
二十分ほど戻って来なかった。


「いらっしゃい」

「お待たせ・・。」


カウンターの内側のイスに腰を
掛けて既にコーヒーを飲んでいた
私は彼にも同じものを出した所だ。

さっきとは違い、随分落ち着いた
笑顔を見せて座った。


「ねえ?
こっちにおいでよ・・。」

「・・・・・・ええ。」


"行かなきゃ"って・・
命令が脳に伝達された。

まただ・・。
否定的な気持ちが沸かない?

外側のカウンター席の隣に座る。

"シア"

甘く耳元でそう囁く声で
目を閉じてしまっていた・・。