貴方の香りだったんだ・・。

禅さんのものとは
全く別の仄かに甘い香り。

覚えている・・鼻が。
とても安心する・・不思議。

でも、頭の隅では解っている。

こうしていても
禅さんに呼ばれでもしたら・・
きっと私は
この腕から離れてしまう。

ここはこんなに心地よいのに?

呼ばれると"行かなきゃ"って
思いながら行ってる気がする。

・・何か、違う気がする、
自分を騙してる気がする。

私、なぜ彼を
好きになったんだろう?

ジュードとの記憶も
思い出さないばかりか、私が今、
"好きだ"と思っている禅との
エピソードだって殆どない・・。


「ミッドナイト・プワゾン・・」

「え? 違うよ・・シア?」

「思い出せない・・。」


あの朝、目覚めた時よりもっと
記憶が薄れたように思うのだ。

このままドンドン
記憶が無くなっていくのでは?
そんな不安さえ覚えてしまう。

私は抱き寄せられた胸から
少し離れてジュードを見上げた。


「教えて下さい。私はなぜ
貴方に泣かされたんです・・?」

「君を同じ理由で傷付けるなんて
そんな惨い事させないでくれ。」


ぱっと離れて、彼はエンジンを
止めた。逃げる様に車を降りる
のを私も追って降りて行った。

ドアに背もたれ、迫る私をチラリ
と視線を移しながらもまた煙草に
火を着けようとしてる。


「誤解だったんでしょう?
なら・・、教えて下さい。
何がどうなってしまったのか・・!」


昨日の彼の様子・・。
とても嘘をついているとは
思えなかった。

彼は煙草をまたしまい、
腕時計を見て呟いてる。


「10時過ぎか・・。」

「ジュードさん・・。」

「俺は本当の事しか言わない。
それでも・・君は平気か?」


記憶が戻れば、嘘を付いても
どうせバレるからだ。

彼もどこか
傷付いている気がした・・

この人はけして悪い男ではない。
私が傷つく事を恐れている。


「あの言葉を"信じていい"と
云って貰えるなら・・。」