「記憶・・
取り戻したいと思う?」


「解りません・・。」



俺は専務から少し時間を貰い、
休憩がてら、
駐車場の車に戻っていた。

彼女にもそれが、
自分にとっては辛い事だったと
認識があるようだった。


可能性としては2つ、
ストレス性記憶障害、

もしくは
何者かによる
催眠療法の悪用の可能性・・。

彼女の記憶が定かにならない限り、
ヘタに熊谷を疑う事も出来ず・・。


「・・だよね。」


俺は窓を開け、
煙草に火を着けるとシアに云う。


「シアはこのまま俺のことを
忘れた方が幸せなのかも・・。」


俺がこんな事を言うのは、さっき
恩田さんが俺にこう云ったんだ。


『彼女の意識が・・
どうも拒んでいるらしい』と。


本人の生活に差し障りがないの
ならそれがいいのかもしれない。

そして
あの男が好きだと云うなら
黙って行かせてやればいい。

忘れるな、これは天罰なんだ。
俺が・・彼女を蔑ろにしたせい。

だから・・。



「"俺にはお前だけなんだ"?」

「えっ・・?」

「ああ云われた時・・私ね、
何故だか・・妙に嬉しかった。」



顔を上げた瞳には・・
浮かんだ涙と、そして、
以前のシアが見え隠れしている。

俺はまた想像した。
あのDVDを観た彼女が
どれほど傷付いて、泣いたかを。

けなげな・・
彼女の潜在意識、

あれを観るまでは・・シアは
俺を信じていてくれていたのに。



「・・お願いがある」

「なんですか・・?」

「抱きしめさせて欲しい」

「エッ・・・あっ・・」


返事を聞くまでもなく、
俺は彼女を抱きしめていた。

納得は出来ないんだ本当は。

屁理屈かもしれないけど
アレは・・浮気などではない、
彼女の為にヤった事である。


「シア・・!
嘘偽りなく、お前だけだ・・。」

「・・・・。」


禁を破って俺は・・暫く
彼女を放せずにいた。

何所へでも連れて行く、
何でもする・・!

だから、俺を思い出して・・
俺をまた愛して・・。


「あ・・、この香り・・。」