「おはようございます。
・・あぁ、シアちゃん、コレ。
ワン・カートンね。」

「すみません」


マネージャーが戻って来て
彼女に煙草を預けた。

やな予感がしたんだ。

坂巻の隣に立ち、
彼は自分の煙草を取り出して
火を着けながら彼女に笑う。


「メイクしたら? そしたら
煙草買おうが、お酒買おうが
補導されずに済むよ。絶対。」

「・・・!」


かあっとシアが赤くなった。

マネージャーは
詳しい事を知らない。

ただ悪意なく、
この男は昨日の出来事を
面白おかしく
話のネタにしたかっただけに
過ぎない。

シアにして見れば坂巻の前で
バカにされて嫌にもなった筈。


「嘘! 補導されちゃったの?」


彼の思惑通りに話に
食い付いた彼らへ、
彼女を横目に気にしながら
俺はシイと口元に指を立てた。

なのに、
追い討ちを掛けるKYな女。


「アハハ・・! 確かにまだ、
"お子ちゃま"みたいだしー!」

「瑠衣さん・・!」


カートンごとバッグに
しまい込む彼女の背後には
まだ、空かさず会話に
潜り込もうとする
お呼びでない、嫌な女が居た。

マネージャーの咎めも解らず、
手を叩きハシャいで
嘲り笑ってやがった。

シアは人知れず呼吸を整え、
一度瞑った目は
"相手にするな"と自分に
言い聞かせている様だった。


「・・化粧? そんな風に、
笑いジワが目立つ様になって
からするモンじゃねえの?」


坂巻は女にニヤと笑って一瞥、
毒と
最後の煙を一緒に吐き出した。

それだけ言い残し、煙草を
灰皿に押し付けて去って行く。

取り残された馬鹿な歌姫は
呆然とした後、やっとその
間抜けな口を動かした。


「な・・! アタシの事ォ??」


庇うかに否定する彼女の
マネージャー。
首を振り続けてはいるが
顔は笑ってる。

シアはと云うと小さな溜息を
押し殺して吐いていた。

癪に障る。

あのバカ女に
あんな風に云えるのは
芸能生活が倍は長い
ヤツだからこそ云えたんだ。

さらりと庇って行くとはね。