ニットパーカーで良かった。

ダテ眼鏡とコレで俯いていれば
私とは解らない筈・・。

バッグを手に潜らせてポケット
に両手を突っ込んで歩いてる。

冷静になろうとしてるだけ、
別に行き先なんてない・・。


( もう・・着いてるかな )


ふと
ジュードさんの事を思ってる。

さっきは・・・


水道から流れてる水の事
なんかすっかり忘れていた。

まだ新しいテレビ画面に
映し出されている
ノーカットの生々しい濡れ場。

まるで水辺でサカリ合う
オスとメス・・獣の様に
激しい交わり方だった・・。


『貴方って最高・・・。』


恍惚の表情でそう云った
画面の中のシェジュは
カメラの方をチラリと見た。

これは・・
彼女が隠し撮ったものだろう。

それを観終わった後
私は・・
その場にへたり込んでいた。

別に悲しくなんかないのに
迂闊にも涙を零してしまう。

"彼女も君と同じ、タダの
セックス・フレンドだよ"

その彼女って・・私のこと?

ハッとなり、
DVDを取りに行きまた
バックにそれをしまい込んだ。

なんだろう・・
この胸がキュウっとなる感じ。

ああ・・前にもあったかな。

坂巻さんの部屋のシーツ・・
替えようと思ってあの人の
長い髪を何本も発見した時、

初めて・・あの人からの
実況SEXの電話を聞いた時・・。

だから私、悲しいなんて
慣れちゃったのかな・・。

でも・・たぶん
このキュウって云うのは
心が着いて来てないのかも。

どうしよう

こう云う時、平常心を保つ
演技がまたヘタクソで・・

いつも"様子が変だ"って
疑われちゃうんだ・・。


プルルッ、プルルッ


「!」

家の電話に驚く、通常の留守番
になっている。


『シア? もう近くまで
帰ってるから。』


「・・・・・。」


私の足は
立ち上がろうともしない。


ツー・ツー・ツー・・・



切れた電話の音だけ・・
ぼんやり聞いていただけだ・・。