「もう誰かが止めないと・・
この"怒り"は更に
感染して行く様な気がして・・」


"怒りは、怒りしか生まない”

そんな事は解っている、
理解は出来るが。

つい、
他に方法は無かったかとか・・
考えては打ち消してばかりだ。

あの状況で咄嗟にした事であり、
俺はその無謀な行動によって
結果的には守られたからだ。

必死になって・・慣れない着物で
下駄を脱ぎ捨ててまで混雑の中
走って来て・・。

俺を・・庇う為に・・!


「そんな事ばっかりしてたら・・
いつか大怪我するンだから!」

「ぐゥっ。」

「・・・もしもし? 北京ダック、
ここで吐かせるおつもりですか?」


ナンだよ専務・・、病院の
裏口手前で抱きしめてるのに・・

怒られた所で止めないけど・・ね。


「あっ・・全く速いな・・。
ジュードさんも覚悟して下さい?」


自動ドアの向こうに多勢の
リポーターと待ち構えるカメラ。

長くなりそうだと予感しながら
自分の上着を彼女に羽織らせた。


「すみません・・あっ。」


そしてその小さな肩を
しっかり抱き寄せると
シアは少し表情を和らげ、
専務は苦笑を浮かべている。


「いつでもどうぞ。」

「じゃ・・行きますか。」


ダボダボの皮のジャケット、
ラフなボブヘアから覗く
処置した左耳の白いガーゼ。

"何を聞かれるんだろう"

そんな不安気な表情が余計に
彼女を痛々しく見せたのかも。

リポーターが揃いも揃って、
言葉を失っている瞬間を
初めて見た気がする。

その訳はインタビューを
終えた後で解ったんだ。