「きゃぁぁぁぁあああ!!」

「シアちゃんっ!!」

「警備!!」

「ソイツを取り押さえろッ!!」




怒涛の男らの声、

周囲のテーブルに居た女達の
止まない黄色い悲鳴、

サイダーのCMみたいな
シュワシュワと云う不気味な
微音。

それに混じって
微動だにしないのに
荒い息遣いが聞えた。

尋常でない事態に動こうとした。

ギュ!と
巻きつく腕に絞められる。

今俺を後から抱いているのは
明らかにシアであろう。

だが、
力強く俺を放そうとしない。

気が付くと暗闇に朱色の光が
煙と共に透けて見てた。

俺はそれが会場の照明が透けて
見えるものだと気付き怖くなる。

イスから立ち上がろうとさえ
したが、今度は肩を押し着ける。



「まだ、動かないで・・!」

「いいから・・! 放すんだ!」

「怪我は・・ないですか?」


「!! ・・シア、もういい
放せ・・大丈夫だよ、お前・・!」

「・・・・・。」


スウ、と影は後退して行った。


「・・・!!」


恐ろしい光景だった。

両手を前に突き出したまま、
まるでゾンビみたいに。

首を前に垂らし、
その表情も見えない。

あんなに艶やかだった振袖は
ボロボロになっていて

その左側の袖からシュワシュワと
煙みたいなのがまだ時々、
小さく上がっていた・・・。


「耳に・・少し・・」

「シアッ!!」


ヘチャ・・と、その場に崩れ
落ちそうになるのを慌てて抱き掬う。

やっと
その綺麗な顔が見えてほっとした。



「大丈夫か・・っ、お前・・!
バカ・・! ホントにっ・・・!!」

「今日、着物で良かった・・フフ。
ああ・・でも・・
会長に叱られちゃいますね・・。」



腕の中のシアも・・
安堵したかの様に笑った。
そして彼女の口元が何か伝えてる。


"何で泣くんです?"


そんなの俺にだって解るか!!
涙なんか・・ほっとけ・・!


「シアさん・・・! 救急車ッ!」

「恩田さん・・ホントに・・
耳だけですってば・・。」