(黒ビールベースか? 臭ッ。)


俺のファンなら俺がビールを
飲まない、カクテルも苦手だと
知っている筈・・。

しかも、ボーイに言われて
挨拶したが、
"ニコ"ってそれだけだった。

俺は細めのコリンズ・グラス
から漂う匂いを嗅がぬ様、
グラスを肘の当たらない
反対側へと移動させるのだ。


「でね、それが凄い訳よ・・!」

「・・・・・・・。」


・・てか、この席、煩さ過ぎ。
なんで俺、この席だったの?

女の井戸端会議のオブザーバー
みたいになっちゃって。辛・・


「あ、それお醤油? きゃ・・!」

「「「「 ア!! 」」」」


ガシャ。

俺に届いたカクテルは
女のヒラヒラ袖のドレスによって
テーブルにぶちまけられた。

皆、服を汚すまいと一斉にイスを
後に引いていた。


「あ~あ~。」

「ごめんね、ジュードさん。」

「イヤ・・・いいよ。」


零してくれて助かった。
事故みたいなもんだ。

パーティも終盤に近づき、
ステージではシーグラスの
お偉いさんが挨拶をしてる最中。

騒がない様に努めたが
周りはやっぱり注目していて。

ボーイが何人も此方へ向かって
来ていたのも見えていた。

それまで皆各自のナフキンで
テーブルの酒を吸い取っている。



「ジュードさんッ・・!」


ん・・? シアの声?

後から? どうしたんだろ・・


「!!」


振り返ろうとした俺の目の前が
真っ暗になった・・。

抱きしめられた一瞬のこの香り、

シアの香りを
感じたのは一秒もなかった・・。


シュワッ・・・

妙な音と・・鼻をつく異臭。
そして、
女たちのツンざく悲鳴が
会場に響いた・・。