・・私は今まだ、私服のまま
事務所でラフィと遊んでいる。

会議という程のものじゃない、
長引きはしない・・筈だった。

良い様に、と
考えてくれている。だから、
事務所が判断を誤ったとは
思わないけど。

そもそも、どうしてこんな事に
なったのか。

ネットと云うものが
布教し過ぎて芸能人に
プライベートがなくなってきた。

私達の知らない所で、
情報のやり取りが
随分前からあった様だ。

この間、
原宿付近で追われていた事、
彼が探し回って連れて帰った事、
2人でお寿司を食べに行った事も

もう
知らない人はいないのでは?


『ヨリを戻したみたいだ』


そんな風にネット上で
書き立てられていたらしい。

おちおち何所にも行けない。

彼がシェジュとの事が叩かれた時、
私の名も出ていたので
今更・・とは思っていた。

中には腹に据えかねていた人も
居たと云う事だろう。

私自身、自分が芸能人だとか云う
意識が薄すぎる。

私がファンの人たちにも
そうでない人たちにも
油断しすぎていたのかも。

きっと・・"破局した"なんて
レベルで物を考えている人達には
楽しい話でしかなかったのかな。

芸能人辞めたい・・って云う人の
気持ちが解らなくもない。

外に出て行けば出て行くほど
きっといっぱい嫌な想いを
するに違いないから・・。


ガチャ。


「お待たせしましたね。」

「いいえ」


やっと会議室から戻って来た
恩田さんの顔を見れば解る。
私はもうラフィをバッグに入れた。



「残念なんですけど、」

「恩田さん、もう行って下さい。
私はタクシーで帰りますから。」


そう云って
事務所から電話をして貰った。

それから・・待っててくれた
衣装さんにごめんなさいって・・。
内線を掛けて貰った。


「シアさん・・。」

「じゃあ、お疲れ様でした。」


頭を下げて少し笑って見せる。
そしてそれだけ云うと
直ぐ下へ降りてった。


"シカタナイコトダカラ"



私は怒ってなんかないし、
スネてもいない。

ちょっと・・淋しかっただけだ。