「・・ちょっと? 女優さんが
それはどうかと思うで?」

「えっ・・?」

「どこで泥遊びなんか
してきたんよ・・もー・・。」



彼はワンピの裾の汚れを指摘し
吹き出しながら体を揺らしてた。

柘植くんとそのスタッフの
人達に陣中見舞いと云うか。

現場まで、評判のドーナツを
差し入れに持ってきていた。

実は例のあの放送の為に、
随分苦労を掛けたらしい。

今となっては結果オーライだと
彼らは笑って許してくれている。


「なんか・・あの黒スーツの
イカツくてゴツーい人は・・?」

「あ・・運転手のブッチさん。」

「兼、SPみたいな?」


苦笑いを悟ってくれたらしい。
事務所から付けられているのだ。

日本に着いて空港から殆ど一緒。

アフリカ系アメリカ人で
一見凄く怖そうだけど実は
ジェントルマンで優しい人だ。


「今日休みなん?」

「うん、明日のお昼まで。」


彼はドーナツを頬張りながら
怪訝な顔つきをしてみせる。

"忙しないよなぁ"
と・・云いたいようだった。

お互いいつも、
中途半端な休みしかないから。

芸能人の宿命、普通の人が
休む時に働いているサービス業
の人達と不規則さは変わらない。


「ごめんね、
忙しい時にお邪魔して。」

「ううん、顔見せてくれて
有難う。また電話するわ。」

「うん。じゃ、また。」



私は最近女優業一本だけど、
柘植の場合、オールマイティだ。

疲れているのが解っているから
誘われないと、一緒に遊べない。

ドアが開けられた車に
乗り込んで走り出したら

柘植くんは何故か携帯片手に
走って見送りに来てくれた。

手を振って
会釈してから通り過ぎて行く。



「あーあ・・、行ってしもた。
たった今、車に乗って帰ったよ?」


『・・・・・。』





・・折角、
一足先に帰って来ても皆は仕事。

第一の失敗は
日本で使う筈だった
携帯を忘れてきてしまった事だ。