自宅に帰る運転途中の車の中
俺は思わず乾いた唇に触れる。

それにしてもアイツめ。

戻ってるなら連絡のヒトツ
入れたっていいじゃないか。

もう・・
一片の愛すら残ってないのか?

・・・俺は? 

あれ以来、心の中どんな女も
入り込めやしなかった。

(挿れた事は
あったかもしれないけど)

正直に云えば・・俺が
侵入を許さなかったんだ・・。

最後に来たメールに
返信を返してみようか・・?

いや・・止そう。

アイツの意思で
俺に連絡したくないと
思ってるのならそれも仕方ない。

シアにとって俺は・・
裏切り者でしかないのかもな。

柘植との最後の企みは・・
俺への最後の恩返しのつもりか。
如何にも彼女らしい。

俺は車で自宅に戻って来ていた。

彼女との思い出の場所なんて、
殆ど自分ン家しかないんだよな。

ああ・・、そう云えば
彼女と行ったのは山中湖だけ。

ディズニー・ランドとか、
ユニバーサル・スタジオとか、
大きな水族館とか。

最悪でも・・公園とか。

何所にも遊びに連れてってなど
やってなかった。

遊びたい年頃の女の子を
俺はずーっと・・傍に置いて。

仕事ばかりで、
ロクに休みもやらないで、
本当に・・
良く着いて来てくれたもんだ。

バカだな、俺。

今頃こんな後悔みたいなコト
してみたってどうしょうもない。

あの頃のシアが居たなら・・
今直ぐにでも
千葉方面に車を走らせもしたが。

居なくなってからこんな事・・。
全く、俺は相当のバカ者だ。

今も自宅の屋上に上って
昼過ぎの空を見上げてる。

せめて今晩、
この空に真ん丸いお月さまが
出る事を願うとしよう。

同じ夜空の下、彼女が
同じ月を見ていると信じて。


「んっ? 」


ふと見下ろすと玄関の辺りに
何か置いてあるのに気が着いた。

さっきは駐車場の方から上がって
来たから気付かなかったんだ。

俺は急いで下へ降りていった。


「あ・・・、」