「あの子ダレ?」


俺と
行動を共にするようになって
13日を過ぎた。

その内、
どの現場に行っても
誰かがそう言い出していた。

俺の傍に居なくても
シアは目立った。
小さくても
雰囲気があるせいだ。

俺の目を盗んで
話し掛けてるヤツもいた。

それは同じ出演者であったり、
プロデューサーであったり。

だがシアはそんな時、
露骨に俺の影に隠れてしまう。

その顔と云ったら、
凄く困った顔をしてるんだ。

蚊の鳴くような声で、

「お早うございます」

背中に触れる事無く、
俺を盾にして横からヌウと
そんな顔でご挨拶だ。


(匿ってやりたくなるじゃん?)


「ごめんね。彼女、
人見知りが激しくってさ。」



実際そうだった。
慣れない場所って事も
あるだろうが、
見知らぬ人(特に業界人)に
話掛けられるのが苦手な様だ。

"俺にしかナツカナイ"

他愛もない優越感、
可愛いワンコみたいだった。


「彼女、ずっと一緒だよね?」

「何者?」


突然現れた彼女の存在に
"あの子ダレ?"と、
目を細めて囁くのは
業界人だけではなかった。

追っかけのファン達の中には
常連が大勢いる。
そんな彼女らの間でも
噂になった。

だが、俺は誰に訊ねられても
嘘は言わない。



「坂巻さんの所から来て
貰ってるの。
住み込みの付き人さん。」

「住み込み?」

「うん、お手伝いさんも
やって貰ってるから。
・・普通、いるでしょ?」



こういう事は何でも当たり前の
如く、クールにサラッと
云わなければダメだ。

いつも
そうやって通してきてる。

こんなキャラだって
知られてるから
お陰で今までつまらない
ゴシップになったコトはない。




「・・・アイツ、何処まで
煙草買いに行ったの?」


場所は変わって
バラエティのロケ現場。

都内の某遊園地でたまにしか
吸わない煙草を切らせた時だ。

どうした事か、買いに走った
筈のシアが帰って来ない。

軽い胸騒ぎがする・・。