微かだけど、ドアの向こうで
専務の声が聞こえた気がする。
ずっと・・誰かと話してる?
私は映画祭が終ったと同時に
病院送りとなった。
体が限界だったのだろう。
今になって
やっと睡魔に襲われていた。
「・・・シーちゃん」
「・・・・柘植くん?」
点滴を受けている病室、
カーテンから柘植が心配顔を
そっと覗かせていた。
「大丈夫?
無理せんと直ぐ病院に
行ったら良かったのに・・。」
「めまいだけだったから。
点滴うったらもう大丈夫。」
「忙しかったんやな・・。」
お土産を渡した以来、
彼とも連絡を取ってなかった。
引っ越した事も、
携帯が変わった事も
薄情な私を責めもしないで・・
全くいつも通り接してくれる。
「太らしたろうと思って、
シュークリーム買ってきたで?」
「甘い匂い・・嬉しい。
今日はお休みなの・・?」
「そうやん・・! 折角、
久し振りにドッグランに
誘おうかと思ってたのに。」
「ごめんなさい・・あの・・」
私は目の前にある自分の
バッグを指差し、彼に口パクで
"ケ・イ・タ・イ"と伝えた。
察した柘植は携帯を取り出して
開くと私の顔を見ながら慌てて
番号を自分の携帯に写した。
『最近、凄く
マネージャーがウルサイから』
やはり彼も入る前に何か
云われていた様で携帯に打った
文字にウンウンと頷いていた。
ジュードさんと
連絡を取り合ってるとでも
思ってるのかな・・?
恩田さんは何か勘違いしていて、
時々、私の携帯をこっそりと
チェックしてるのを知っている。
彼とはあの、ドイツ以来、
チラリとも会っていない。
もうそろそろ1ヶ月になる。
今の専務は
かつてのセラピストではない。
私が映画に出る様になってから
ずっと、マネージャーだ・・。
会長からも何か色々とお達しが
あるのかも知れないけど、
本当に最近は
監視されている気がする。
『此処を出たらまた直ぐ、
連絡してもいいですか?』
手で"OK"を貰い、私は久々の
安堵感を覚えるのだった。


