時計の針は23時を回った。

女を送り、そろそろヤツは
この安ホテルに戻ってくる筈。

古い型の白いセダン、
プレートに"わ"。

間違いなくシェジュの
マネージャーが使ってる車だ。

駐車場に入っていったから
じき、此処を通るだろう。


「ぅわっ・・! ジュードさん、
何やってるんですか・・!?」

「寝酒がわりにイッパイ
やらない? 話しがあるんだ。」


ビジネス・ホテルの自動ドア、
スレスレに立ちはだかって
やってたからビビってやがる。

驚く時も日本語か。
確かこっちの方が韓国より
長いと云っていた。

俺は彼を近くのバーに連れて
行く。警戒心が強いし、
酒でも飲まさないと口が
滑らかにならないタイプだ。

カウンターに腰掛け、
キツイのをワンショットで
クイ!と呷っている。
随分、酒も我慢していた様だ。


「苦労してるんだろうな。」


彼の足元、ズボンのほつれが
気になって仕方ないから、
指を差して指摘してやった。

だが"なんだ、そんなもの"と
云わんばかりに黙ってそれを
見ながら己を嘲笑ってる。

そして矢継ぎ早にどんどんと
注文、喉を潤してるみたいに。


「内助の功だね、シェジュも
幸せ者だよ。君みたいな・・」

「俺が不幸さ」

「え?」

「今では家庭もあるってのに
あの女は毒グモの様な女だ!」


ダン! グラスが割れない程度に
叩き付けている・・小心者。


「会社は彼女をこっちに
据え置くまで帰るなと云うし。
辞めると云ったら・・あの女は
色仕掛けで私をハメたんだ。」

「・・・脅されてる?」

「ああ、家内にバラすってな。」


「そりゃ困るね、じゃ、俺が
君を自由にしてやろうか?」

「ああ、
お陰で毎日奴隷扱いさ・・!
ブフッ・・!今・・なんだって・・?」