「もう・・汐ちゃん、
ウチに着いたかな・・。」

「そろそろ着いてるよ。」


柘植くんが彼女を、
そして私をサクヤさんが。

マンションの部屋の前まで
何かあるといけないからって
ちゃんと送り届けてくれた。


「・・心配しないで、ね?」

「ええ・・。」


ドアの前、向かい合った瞬間
彼を見上げようとして・・
密かに慌てている。

近づくサクヤの顔に俯いて
しまった。さり気無く・・ナイ。


「ちぇっ・・ココで我慢しよ。」

「・・・。」

「オヤスミ・・!」


思い直してくれた彼は
額に唇を落としてから
巻き付く様に抱きしめて・・

顔も見ず、後向きに
片手を上げて帰ってしまった。

思わずエレベーター前まで
追い掛けてジャケットを掴む。


「あの・・、ありがと・・。」

「・・ううん。」


クシャっと頭を撫でてから
エレベーターに乗って行く。

無理に・・笑わせてしまった。


"シアの事がさ? 可愛くて仕方
なくて、心配で堪らなくて"

坂巻が私を彼に貸し出した頃、
まるでお家で待ってる本当の
妹みたいに大事にしてくれた。

そういえば・・
どうして坂巻は死んだ後、
彼よりも
ジュードを推したんだろう?

サクヤは本当に優しい、
他のどの男の人より・・
私の事を好いていてくれてる
カモシレナイと云うのに。

・・・・・。


待って! 私ちょっとオカシイ!


やや錯乱してる・・、
お風呂でも沸かして
ゆっくりしよう。

鍵を閉めてラフィを降ろして
やってから二階に上がる。

バスのお湯を見つめながら、
考えを纏めてみた。

推すとか推さないとか、
好いてるとか好かないとか。

そんな事を考えてるなんて。

恋愛を否定するのではなく、
"依存"を恐れていた筈である。

それにジュードが連絡を
メール1つ遣さないのは

"俺の勝手でしょ?"

或いは

"云わなくても
信じてくれてるでしょ?"

・・もしくは単に
やましい事があるから。

結論は・・

"彼にもジュードにも・・
何も求めちゃいけない"

そう云う事だ。