「北ノ枇記念病院に入院中の・・」


もう1人の警察がそう云った途端、
奥でガタンとイスの音がした。

シアが俺の真後ろから
ドア・チェーンを外すのだ。


「結城史江さんは・・
貴方の実のお母さんですね?」


彼女は長いカーディガンを
胸元で引き寄せながら頷いてる。

云い難そうにしている刑事を
ジっと心細そうに見ていた。

彼女の肩を抱き、
俺もその男を見遣る。


「お母さん、
絞殺されたそうです・・。」


「・・・・っ。」


シアが息を詰らせて足元から
体を揺らがせたのを支えてやる。

宮田は朝食後
ヘルパーさんが席を外し
ナース達による朝の検診前の
騒がしい一時、
そのごく僅かな隙に紛れ込んだ。

見つかって逃げる途中、
しきりに空を手で掻きずっと

"来るなぁ、近寄るなっ"

そう叫んで走り、
後ろ向きから向き直った所、
反対車線のダンプに撥ね飛ばされ
即死したそうだ・・。



「・・確認をお願いします」




俺は恩田さんと合流、
シアは警察の依頼で元の両親と
遺体置き場で再会している。

俺達は廊下で待ちながら
彼女のこれからの事を話してた。




「会長とも急遽、相談して今期の
自社の仕事は休止と云う事で・・」


「・・契約破棄じゃなく?」




イメキャラとしては
事件の後だ、痛すぎるんだろう。

まあ、そうは云ってもウチの
事務所としての契約は残るから。

当分の"活動休止"と言う事だ。


母親の密葬を終え、この事を既に
聞かされていた彼女は
素直に事務所側の指示に従った。



『少しの間、1人にさせて下さい』


俺がシアの部屋で
テーブルの上にたった一枚の
手紙を見つけたのは
それから二日後の事だった・・。