実はそのおとつい、勝手に
彼女の部屋の荷物を他所へ
移したのだ。

つまり引越しした。



「いいじゃん、閑静な住宅街
だし、同じメゾネットだし。」

「折角・・柘植くんと犬友に
なったばかりだったのに・・。」



言い出しっぺは会長である。

マスコミが気付かないうちに
さっさとやってしまったんだ。

俺もあの土地は
離れた方がいいと思った、

お喋りが過ぎる地元のタクシー
運転手が彼女の住むマンション
を客に言い触らしていたからだ。

それにあの乱闘の後の部屋は・・

壁は凹んでるわ、
ヤツの血は飛び散ってるわで?

見せられたものじゃなかった。
修理するにも時間が掛かる。

気分的にもイヤだろうし、
警備が手薄過ぎる事もあった。



「今時、宅配BOXのない所に
芸能人が住む方が間違ってる。」



実は那須が刺された後の本当の事
を、まだ本人から聞いていない。



「ほら、着きましたよ。」



23区内だとどうしてもあの
部屋と似た物件が少ない。

部屋は最上階の7階。なるだけ
私生活が覗かれない様に。



「前より一部屋少ないんです
けど・・、さ。どうぞ。」



ラフィが顔を覗かすバッグを
抱えながら専務が部屋を開けた。



「あれっ、前より広くない?」

「・・・・・。」



前より玄関らしい広い玄関。

床は滑らないタイル張り。
部屋はフローリングで
その切り替えがモダンで面白い。



「お、オカシイですよ、絶対・・!」