「_______ !!」




寝ている所を強引にグイッと、
手を引き上げられた感覚。

気が着けば

今、誰かの胸板に
体ごと押し付けられている。

忘れるはずも無い・・・
来るべき所に
やっと辿り着いたのだと悟った


「バカが・・。」



大きなカマ、
黒いマント、
白い・・マスク。

そして懐かしい声。
死んでから夢は見ないだろう。
ただ。
涙腺はどうしようもなく熱い。



ガランガラン・・!



私を腕にしっかり抱き留めると
大きなカマを地面に放った。



「"見ててやる"って云ったの、
もう忘れちまったのか?」

「・・・ごめんなさい」



死神装束の男は腰を抱いた
まま、上半身を少し離した。


生前のクセは変わらない・・。


自分より下にある、私の顔を
覗く時、少し顔を傾けて見る。

マスクからはなぜか瞳すら
見せてはくれないが
仕草で解る。


ここはまるでセットみたいな、
白い世界。

普通、先に"三途の川"なるもの
の畔を歩くんだと思ってた。




「お前、
確か"アーメン"だったろ?」

「あ・・ええ。」




でも、なぜ、死神に?
そんな疑問もどうでもいい。



「顔に傷、
こさえやがって・・痛ぇか?」



散々、頬をぶたれて
皮膚に小さな赤い斑点が
浮き出ているらしい。


それでも夢心地だった・・。


その手のひらで、
また頬を摩って貰えるとは
思いもしなかったから。



「優しい死神ですね・・。
仕事に・・ならないのでは?」



咳こそ出ないが、息が苦しい。

あの後、此処に来たのだから
仕方がないのかもしれない。

私はそう云いながら、
彼の手のひらに全て預けた。



「・・いいんだ、
バイトみてえなモンだから。」



筋張った手が髪を撫で梳かし、
屈んではまた抱きしめる。

死んでも
鼻水と涙は出るらしい。