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私はタクシーに乗って
自分のマンションに
帰って来ていた。

那須さんを傷付けた
あの男が許せなくて・・。

だが私も感情的には
なってはいない。

逆に自分の中で
どんどん冷えていく
心を感じている位だった。

道路に面した
リビング側の小窓を押し開け、
部屋中の明かりを着けた。

ふと、
誘蛾灯を思い浮かべながら。




_____ ピンポーン・・



「・・来られると
思っていました。どうぞ。」



ガチャ・・。



さっきは押入ってまで
入って来ようとしたクセに、
今はベルを押して来る男も
可笑しなものだが、

それ以上に
私が嫌に落ち着き払って
男にドアを開け招き入れたのだ。

彼もまた、
狐につままれた顔で立っていた。


目の前に居るのは、
さっき大きな悲鳴を上げて
人殺しと自分を罵った同じ女だ。

罠だと思うだろう。

そろり、顔を覗かせオズオズ
中へと足を踏み入れている。



「私一人ですよ。」



かつて
私の父親代わりだった男は
あの威風すら消え去り・・

不精髭、衣服も汚れ、
もう何日も風呂に
入っていないのだろう。
土色の肌をしている。



「少し、落ち着いて話を
しましょう。宮田さん。」

「・・・・。」



"宮田さん"

そう呼んだ時、
どう云う気持ちからか目が
キュと細まった。

彼の心境など知る必要もない。

部屋の中をゆっくり見回して
いる男に冷たく指を差す。



「どうぞ、そちらへ。」



玄関から左側のダイニングへ
座っている様に云った。



「脱ぎもしないタレントが、
いい部屋に住んでるんだな。」

「お陰様で。何か食べますか? 」

「・・ああ。」



男は安心したかにドサリとイスへ
腰を落としている。