私と云う子供は彼女にとって、
父への当て付けの小道具にしか
過ぎなかったが・・

母は父を憎いほど愛していた。
・・今なら解る。

両親に対しての私の気持ちは
とても冷めたもので、

父に対しては
なぜ直ぐ離婚しなかったのか、
なぜ認知したのか

母に対しては
なぜ・・
私を愛せなかったのか。

質問は
それに尽きるだろう。


「準備できた?」


その日の晩、
那須さんが迎えに来た。

犬のグッズと当分の着替えを
車に詰みこんだ。

ナイフを持っていた事もあり
一旦警察に突き出したものの、
父は釈放されたとか。

専務→ジュードさんから連絡
を貰ったと云うのだ。

ジュードさんは今、
ドラマロケで地方に居るらしい。


「暫くはこっちで過ごすんだ、
独りじゃ危ないからねっ。」


真面目に黒縁眼鏡を掛けた
那須さんが周りを見渡してから
小声で言った。

確かに・・昔の父ではない。

ナリも雰囲気も変わり果て、
疲れて、窪んだ目元なのに
眼光だけはいやに鋭かった。

俗に言うギラギラした目・・?


「大丈夫、俺こう見えても
シュート・ボクサーだから!」

「そうでしたね、頼もしいから
怖くなんかないです。有難う。
・・・本当に・・・。」

「朝ごはんはフレンチ・トースト
にするからっ・・! ねっ・・?」


助手席に乗り込んだ私の髪を
ワシャワシャに撫でて・・
涙ぐむのを何とか防いでから
車を静かに発進させるのだった。