あの父がいなければ私と云う
存在が今此処に
残っていたのだろうか?

土地柄か、父が連れてきたのは
アメリカ人のベビーシッター。

その、
ジリおばさんから受けた愛情と
彼女を雇った
父のお金で私は育ったと云える。

そこには母と云う文字すら
割り込む余地はない。

その父が、事業を起こして失敗、
金を貸して欲しいと・・
イベントの事を聞きつけて
此処まで会いに来たそうだ。

全てを話して欲しいと云われた
専務が・・車の中
悲しい事を教えてくれた。


「有名になればなるほど、
こういった借金の依頼は多い。
けど、この場合あなたの
育ての父親ですからね・・。」


私を育てたのはジリおばさんだ。
そんな事を・・思ったりもした。

恩はあるが、愛はない。

あの家には暮らしてなかった。
母が私を産んでからずっとだ。



父はやはり自分の血をひく
兄を引き取りたがってた。

兄が父からの電話で
"絶対嫌だ"と泣いて抗議して
いるのを何度かみていたから。

愛人の若い女を・・
兄は知っていた様だった。


「もう・・どうしようも
ない所まで来てしまって
いるんでしょうね・・。」



私の所に来る位だから・・
きっと他所にも借金をしている。

もう他に貸してくれるアテが
ないのだろう。

会長は既にこの話を知っていて、
内々に処理しようと考えていた。
弁護士に相談しているらしい。

法的に効力のある方法で解決
しない事には容易にまたやって
来てお金をせびるかもしれない。

実際にそう云うケースは多い。



「シアさんは
何も心配なさらないで。
我々が着いているんですから。」


そう云って安心させてくれる
恩田さんではあったが・・。