「別に無理して忘れてあげる事、
ないんちゃう? しーちゃん自身が、
いい思い出やったと云えるなら?」


「・・・・・。」


「不安と向き合うって凄く大変な
作業やったわぁ。消去法で残るん
はいつも俺自身やったりしてさ。」



後片付けをしながら彼が云う。

"今だによく闘っている"と。

柘植と云う人は、
アイドルだけれども特に美形と
云う訳ではなく、少し風変わり。

デビューもうんと早かった為か、
まだ二十歳そこそこなのに
妙~に落ち着いている。


「今だ自分の中に"僕"って部分と
"俺"って部分が共存してるし。
両方自分やもん、認めたらな。」


上手くは云えないけどと、
前置きしてそんな事を言った。


「さっき言うてたやん。
中身も、人間って思ったよりは
頑丈やねんから。開き直ってみ?」



前向きな人、

気遣える人、

満たしてあげる

魔法を知ってる



「・・・・ウン」



私もこんな風に
なれたら・・いいな。



「急に1人ってのも不安やろし、
暇やったら電話ちょうだいね。」


「ご馳走様でした。
今日は誘ってくれて有難うござ」



彼が私の口を手の平で塞ぐ。
しかもフグみたいに頬を膨らせて。



「敬語やめようって! もう友達
やねんから。んじゃ、もう一回。」


「・・えーと、ご馳走様でした。
誘ってくれて・・有難う。」


「・・良く出来ました。じゃ、また。」

「気をつけて、また。」




エレベーター前まで見送って、
小さく手を振った。



こっちで・・初めて、
ホントのトモダチになれた気がします。