俺達はそうしながら呟いた
彼女を痛々しく眺めていた。


「何故・・ですか?」


シアのしわがれた声で
サクヤも俺も、女の方を見た。

すっぴんでも顔が黒い彼女は
疲れた泣き顔で首を振り続ける。



「彼からね、"もう会わない"って
云われて理由を問い詰めたの。
やっと・・癌だって聞いて・・!」



癌告知から半年。

シアと再会し、
拾った時はもう
余命を知らされていたんだ。

若いうちの癌の転移は早い。

本当なら、二ヶ月前にもう
亡くなっている筈だったらしい。

彼は延びた余命を
懸命に生きたのだ。

ツアーへの参加、
そしてシアを
俺に頼んで行きやがった。

あの咳も
風邪じゃなかったんだ。



「誰にも云うな、
"俺は静かに逝きたいんだよ"
って・・!」



どこまで・・
意地っ張りなんだ?

逝ってしまえば
それで終るのか?

どこまで勝手なんだよ・・!

アンタのせいでまた
シアがどうにかなったら俺は、



「坂巻さん・・寒いですか?
だんだん手が冷えて・・可哀そう。」



パイプイスに座り、
とうに意思のない彼の掌を
自らの頬に当てたまま摩ってる。

まるで・・
夢でも見てるみたいな
ぼんやりとした様子で
シアは坂巻に話し掛けている。


もう・・奇跡は
起きそうにないと云うのに。


「・・・シア!?」