私は・・
今まで何処に居たのだろう?

そこは天国ほど穏やかではなく
地獄ほどの苦しみもない場所で。

そう、ただ
貴方が傍に居なかっただけ。

今は・・夢から醒めた、
そんな気持ちにもなる。


あの収録の後、
直ぐに病院へと駈け付けた。

その状況を聞いてから
ずっと言葉を発せないまま

ジュードに肩を抱かれて
やっと歩き着いた病室。

会いたい一心で・・
嘘であって欲しい
気持ちだけで
此処まで来たけど私は・・



貴方が___

居ない果てを見るのが怖い


「・・どうぞ。」


聞き覚えのあるハスキーな声。

ドアを開けたその部屋の中は、
普通誰かが花でも
持って来ていそうなものなのに
殺風景で。


病室のベッドに横たわる坂巻
は、まるで別人になっていた。

ここまでやつれるなんて・・。


「・・痛みは?」


ジュードさんが
付き添っていた彼女に訊ねてる。

もう・・
痛みは感じていないだろう。
私には解った。

誰が入って来たなどと
解る筈もない。

末期・・否、既に
"生かされている"状態・・

もう最期なんだ・・。


自分でも恐ろしいくらい
冷静な
もう1人の私が居たらしい。

恐らくもう
モルヒネが打たれていた。

薄っすらと開く
光を失い掛けていた
彼の目を指で優しく
撫で付けて・・。

もう、
あの声も零れてこない唇に
私は自分のチューブリップを
小指に取って
カラカラの表面に
薄く延ばして付けてやる。

こけた頬を摩り、
口元へ耳を寄せた。

僅かな、呼吸が聞こえる。

彼は・・坂巻は
まだ此処に生きているのだ。



「だから・・吸い過ぎは
良くないって、あれほど
云ったじゃないですか・・。」



彼の匂いが、消毒液の匂いの中、
微かにして・・
大きく息を吸い込んだ。

急激に年老いた様な手を取り、
冷たさをひしひしと
感じながら頬へ当ててみる。


もう、
こうして撫でても貰えない・・