「警備でももう少し安い。」

「へえ? そんなつもり?」

「・・彼女次第かな?
イキナリ結婚したりしてね。」



クスッと笑ってやり、

俺は買い物に使う筈だった
金をヒト束、
テーブルに置いて部屋を出る。

もうヤツの顔色は
見飽きたんでね。


「お待たせ」


車に戻ると
後部で意気消沈してた
彼女の隣に滑り込む。

微笑みもない。それどころか、
ピリリと
緊張を体全体に走らせていた。


「もっとリラックスして。
かしこまらないでも
いいんだから。」

「宜しくお願いします・・。」


俺も奴も、
タイプ的には寡黙な方で
身内にしか打ち解けないし
笑顔もそうそう見せはしない。

緊張するのも無理はなかった。

それに俺はこう見えて意外に
"シャイ・ボーイ"だと
自覚すらある。

この車内の静けさの中、
後部シートの端っこに
ちんまりと座ったシアは
すっかり暗くなった外の
流れる景色をずっと見てる。

長く、反り返ったまつ毛、
小さな顔の頬の膨らみ具合。

ひょっとしたら俺と同じで
他国の血が何処かに
混じってるのかもしれない。

サングラスの奥からずっと
気付かれない様にそんな
憂う美しい横顔を眺めていた。

無言で・・何を思ってるのか。



「家出でもしたの?」



ポカンと唇を開けたまま、
こちらに振り向いた。

たった1つだけの
小さなバッグから、免許証を
取り出して俺に手渡す。


「家出なんて
歳じゃありません。」


彼女の名前は"結城 史亜"。
歳も本当だった。

"シア"だなんて
ニックネームだと思ってたが。
親もきっと若いんだろう。

そして同時に思った。

彼女には
奴に騙されている自覚がない。



「彼の所は長いの?」

「いいえ、まだ半年です。」

「何でまた彼の所に?」

「それは・・内緒です。」

「ふふ、そうなんだ?」



少しだけど、彼女が笑った。
そんな
寂しい笑顔しか見せないんだ。

今日会ったばかりの女の子に、
俺はちょっとだけ
同情したのかもしれない。