「今は、帰る事に躊躇いがございます。。
帰ると宮さんに会えんようになってしまうんどすやろか?」
宮さんはうちを優しく抱き締めはった。
『大丈夫だ。。
現世に帰る事…
春乃屋を継ぐ事が君に与えられた天命なら、現世に帰るんだ。
私の側に居たいと思ってくれたなら、それだけで私は嬉しい』
「うちは、ちっぽけな人間どす。。
置屋の跡取り娘として、真綿にくるまれて生きていました。
でも、平安の世に来て…
気づいた事があるんどすえ」
『なんだ?』
「毎日を暮らせる事は当たり前やないし…
人の命はみんな尊い。
好きで添えない人生があるんどすから…
うちが生きとる時代は、この国は豊かで…
でも人が希望をなくしている時代なんどす。
明日の見えない時代」
『豊かなのに、なぜ明日が見えないんだ?』
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