真っ暗な空間に、亜莉子(アリス)は立っていた。
周りには何も無い。
有るのは、この沈みそうな重い暗闇と一抹の不安だけ。

ただ呆然と立っていると、不意に足音が聞こえてきた。

足音がした方を振り向くと、亜莉子のよく見知った背中があった。

「パパ…?」

こんなに深い暗闇の中なのに、何故かその姿は、はっきりと見えた。

突然、その姿が歩き出す。
その姿に追い付こうと、亜莉子は走り出す。

しかし、走っても走っても、追い付くことができない。

「待って、待ってよ!パパっ!!」

呼び掛けても、返事は無い。

それでも、亜莉子は呼び続けた。
何度も何度も。

突然その姿が立ち止まった。
するとその周りに、亜莉子が見知った姿が次々と現れた。

「ゆう…、あきら。…おねちゃん、お兄ちゃんッッ!!」

そしてー。

「マ…マ?」

全員、亜莉子に背を向けたまま、立っている。

「みんな…どうしたの?私に気付いてよ。ねぇっ!」

亜莉子は大声で言った。
聞こえ無い距離ではないはずなのに。

誰も振り向かない。

亜莉子の一抹の不安は急に膨れ上がった。
何故…?

もう一度呼び掛けようと、口を開きかけた瞬間。

亜莉子は、みんなが暗闇に飲み込まれるのを見た…。