“こんばんは”


なんとなく、あの人と話したくなった。


“!!”


“直でしょ?”


今の私は、桜木詩音じゃなくて、‘マリン’。だから、何のためらいもなく話しかける。

今まで同じフィールドで競技していたのだろうに、ずっと気がつかないのもすごいと思う。


“あぁ”

彼は、心底驚いたとでもいうように、目を見開いている。

“がっかりした?”

彼は即刻首を横に振る。


“驚いた”


“そう。

ねぇ、明日も走るんでしょ?”

私は、分かっていながらあえて聞く。

だって、彼が走っている姿はしっかり見たもの。

“あぁ。それは`マリン´もだろ?”


彼は、私の正体も知らないのに質問を返してきた。


“うん。
今走って大丈夫なの?
明日に疲れ残らないの?”


“俺は並外れに体力あるから”


そう言って彼は笑った。


“ってか、`マリン´は大丈夫なの?”


“そう言えば、直は昔から体力あったね。

私も体力は並外れだから”


そう言って私も笑う――……。