「あひるさあ」
「なあに」
「俺にもいつか醤油かけんの」
雑誌を読むふりをしながら問いかける。ちらりと目線をやると、真ん丸な目を細めて笑っているあひると目が合った。
「おれ、子供できたんだ」
唐突にそんなことを言う。極端な狼狽こそしないが、雑誌を落とした俺を見てあひるは吹き出した。
「おれの腹にとは言わないよ」
じゃあどこに、なんてバカげた質問だ。今までそんな素振りはひとつも見せなかったくせに。
「予定日は?」
「昨日」
「バカか、お前!」
平気な顔で答えたあひるに、俺は慌てて飛び起きようとした。それでもあひるは一切動こうとせず、俺はソファに寝ころんだまま動けない。そんなに体格差がある訳でもないのに、あひるは的確な場所に的確な方法で体重をかけていた。
「公園とか、行ってる場合じゃねえだろ」
「うん」
「なにが、夜行列車だよ」
「うん」
「バカじゃん…」
あひるが俯く。横目にもうつろな瞳が一体どこを見ているのか、俺にも分からなかった。
「旬くん、全部嘘だって言ったら怒るか」
直後、真剣な顔できいてきたあひるに、俺はどっと疲れを感じた。
「…殴る」
「よかった。予定日は、本当は半年後。それ以外は本当だから」
そう言ってやっと腰を上げたあひると向き合う。
「本当か」
「うん」
「絶対に?」
「うん」
もう一度頷いたあひるを、思いっきり殴った。あひるはよろめいて尻餅をつき、唖然とした顔で俺を見た。俺は思ったよりずっと冷静に、あひるを見下ろしていた。あひるの尖った唇が震える。小動物のような目だと思った。
「なあに」
「俺にもいつか醤油かけんの」
雑誌を読むふりをしながら問いかける。ちらりと目線をやると、真ん丸な目を細めて笑っているあひると目が合った。
「おれ、子供できたんだ」
唐突にそんなことを言う。極端な狼狽こそしないが、雑誌を落とした俺を見てあひるは吹き出した。
「おれの腹にとは言わないよ」
じゃあどこに、なんてバカげた質問だ。今までそんな素振りはひとつも見せなかったくせに。
「予定日は?」
「昨日」
「バカか、お前!」
平気な顔で答えたあひるに、俺は慌てて飛び起きようとした。それでもあひるは一切動こうとせず、俺はソファに寝ころんだまま動けない。そんなに体格差がある訳でもないのに、あひるは的確な場所に的確な方法で体重をかけていた。
「公園とか、行ってる場合じゃねえだろ」
「うん」
「なにが、夜行列車だよ」
「うん」
「バカじゃん…」
あひるが俯く。横目にもうつろな瞳が一体どこを見ているのか、俺にも分からなかった。
「旬くん、全部嘘だって言ったら怒るか」
直後、真剣な顔できいてきたあひるに、俺はどっと疲れを感じた。
「…殴る」
「よかった。予定日は、本当は半年後。それ以外は本当だから」
そう言ってやっと腰を上げたあひると向き合う。
「本当か」
「うん」
「絶対に?」
「うん」
もう一度頷いたあひるを、思いっきり殴った。あひるはよろめいて尻餅をつき、唖然とした顔で俺を見た。俺は思ったよりずっと冷静に、あひるを見下ろしていた。あひるの尖った唇が震える。小動物のような目だと思った。
