真面目なあたしは悪MANに恋をする

「ほれ、昨日の忘れもんだよ」

柔らかい生地でできた紺色の鞄を、ケンケンが投げてきた

あしたの靴の前に、鞄が転がる

泥にまみれた鞄は、確かに寺島君がいつも持っている鞄だった

「ここのとんかつ屋の社員証があったからさあ。もしかして…って思ってやって来たわけよ。そこらへんに捨てても良かったんだけど、もう一度、顔を見てからでもいいかな?って思ってさぁ」

ケンケンが楽しそうに口を開きながら、にこっと寺島君に微笑んだ

ケンケンは笑っている…でも、目は笑ってない

あたしに笑いかけてくれるケンケンとは全く別モノで、背筋が凍りつくような笑顔だった

「あっれえ? よく見たら、昨日、加藤君の車にいた子? 助手席で丸まって怯えたウサギちゃんだぁ」

「う…ウサギちゃん?」

あたしはびっくりして声をあげた

なんて、ネーミングセンスなの?

まあ、ケンケンらしくて面白いけど…どうして『車の中で怯えてた』って言うの?

もしかしてあたしの話をどこかで聞いてた?

そうだよね?

だって、バイク音もせずにバイクのライトがついたよ?

暗闇の中で、じっと寺島君が来るのを待っていたのかもしれない

そこにあたしと寺島君が来て、言い争ってるところを邪魔したって感じなのかな?