真面目なあたしは悪MANに恋をする

ちょうど店から出てきた片岡君と目が合う

二輪用のヘルメットを小脇に抱えて、黒のハーフコートに黒革の手袋をつけていた

「寺島君、鈴木さん、お疲れ様です」

片岡君がにこっと笑って、声をかけてくる

「お疲れ様です」

あたしはぺこっと頭を下げる

寺島君も振り返るけど、何も言わずにあたしのほうを見てきた

「ちょっと来い」

寺島君に腕を掴まれると、あたしは駅とは逆方向に連れて行かれた

え? 何で?

あたしは片岡君のほうに、振りかえった

片岡君は、無表情で寺島君を見つめていた

あの顔って、きっと怒ってるんだろうなあ

2分くらい歩道を歩き続けると、寺島君の足がぴたっと止まった

「昨日、加藤が入院した」

「うん」

「俺と茉莉は、あいつらにいろいろと奪われて、金がねえから歩いて帰った。鈴木さんはどうだったんだよ」

「く…車の中にいた」

「ずっと?」

「うん、ずっと。怖かったから。下を向いてじっとしてたら…居なくなったよ」

あたしは嘘をついた

嘘をついたほうがいいと思ったから

寺島君に事実を話す気にはなれなかった

どうしてだろう

赤族の長が片岡君だと、言いたくなかった