「駄目っていうか…俺らよりも長く付き合ってる二人が、なんかよそよそしく見えるっすよね」

ケンが携帯を拾いながら、口を開いた

「理菜もびっくりして、ほら…泣きやんだよぉ」

透理がにこっと笑った

「エッチのときは? その時も『片岡君』?」

「いや…違うけど」

葉南の顔が真っ赤になる

「僕たちがどう呼び合おうと、互いの心が通じ合ってればいいじゃない」

僕の言葉に「まあ、そうだけど」と全員が答えると、また居間が騒がしくなった

マサと茉莉の喧嘩がまた始まり、理菜ちゃんの泣き声が響き、ケンの長電話が再開された

「う…うるさい」

葉南が小さな声で不満を漏らした

「土曜日なのに…仕事場にいるみたいな気がしてくる」

葉南の言葉に、僕はくすっと笑った

葉南は、幼稚園に無事就職ができて、今は年中の担任をしている

僕は大学に進学し、今は大学二年生だ

全員、赤族を抜け、それぞれの道に進んだ…はずなのに、こうして集まっては僕の家で大騒ぎをしている

三階建ての家には、まだ赤族の人間が寄りそうに生活している

新しい族長は、とても良いヤツだ

しっかりしてて、きちんと赤族を纏めている

帰る場所がなくて、僕の家に居候しているけれど、真面目なヤツだ

「あー、今日も騒がしいんだね」

僕の後任の族長である新垣 篤樹が制服姿で居間に顔を出した

「あっちゃん、おかえりぃ」

透理が気がついて、声をかける

「理菜をよろしくねえ」

透理が篤樹に理菜を預けると、ひらひらと手を振って居間を出て行った

「…え? 俺?」

篤樹が驚いて振り返ると、もう透理の姿がなかった