あつっ…

スーツを着た俺は、まだ動いてもいないのに流れてくる汗に気持ち悪さを感じた

リンはこのなかで、よく楽しんで動きまわってるよな

すごいよ

ショーが始まると、バイト仲間たちが役の声に合わせて舞台で立ち回る

朝、一度だけリンと練習しただけで、本番に挑む

俺の仕事は、バイクアクション

本当なら、バイク専用のスーツアクターを用意しているんだけど、その人が出られないために俺がやる

俺はバイクに跨って出番を待っていると、客席のほうが騒がしくなるのがわかった

ぶつっとショーの音が消えると、バイクのエンジンが耳に入ってきた

…きたか、あいつら

ショーを荒す馬鹿な奴らが

俺はハンドルをぎゅっと握りしめると、スーツを着ているリンが他の人に抱えられながら舞台裏に飛び込んできた

「どうしたんすか?」

「なんでもないの」

リンが、スーツを脱ぎながらにっこりと笑った

「棒を振りまわしている暴走族に……」

他の人が、俺に説明をしてくれた

「子供に当たりそうだったから。それだけよ。平気」

リンがそう言いながら、赤く腫れた右腕を痛そうに動かした

「平気じゃないじゃないっすか。女性の身体を怪我させるなんて、俺、許さないっすよ」

「ケン、大丈夫よ。今回は警備員も増やしてもらえてるから…」

「そういう問題じゃないっすから」

俺はショーのスーツを着たまま、バイクに跨るとエンジンをかけて舞台のほうに飛び出していった