「俺、いつまで寝たふりしてたほうがいい?」

下からケンの声が聞こえてきて、俺は視線を動かして

薄目を開けて、俺を見ているケンがにやりと笑っている

「起きてたなら、もっとちゃんと歩いてよ」

「今、目が覚めたんだよ。寒い会話してるから、酔いが醒めちまったよ」

ケンが起き上がると、後頭部を擦った

さっき玄関に倒れ込んだ時にぶつけたところだった

「本当に俺だけなんだなあ…見つけてないの」

ケンがさびしそうにぼやいた

「すぐに見つかるよ」

「どうかな? 俺自身が、区切りがついてねえもん。あいつ以外の女を抱くなんて…」

「茉莉ちゃんのときは?」

「あれは…かぶったんだ。あいつと同じ名前で、あいつと同じようにリストカットしてた。でも抱いてない。抱けなかった」

ケンが立ち上がって、俺たちを見る

「帰るわ! もう平気だから。俺、一生一人でもいいんだ。そのほうが、俺の親もあいつの親も安心するだろ? 俺が不幸なほうが……安心する」

ケンが瞳を赤くした

「それでも俺は、ケンの幸せを願うよ」

「サンキュ。今のままだって十分すぎるほど幸せだよ」

ケンがにこっと笑うと、『世話になった』と言って家を出ていった

玄関に残った俺は、鈴菜のほうを見るなりキスをした

「あの人、すごく寂しそうな顔をしてたね」

「ああ。大好きな人が自殺したんだ。それを今でも引き摺って生きてるから」

「そうなんだ。良い人が見つかるといいね」

鈴菜が、俺の手をぎゅっと握りしめた

「ああ、見つかるよ」