『こういう店で働いてる女のくせに…勿体ぶってんじゃないんだよ。こっちは金を払ってんだ』

うわあ、最悪な客だねえ

ああいうのが、世にいるからクラブが低次元な扱いになるんだよ

ルールを守って欲しいよねえ

いくら金を払ってるって言っても、それなりのルールとマナーがあるのに

「すみません」

女性が、か細い声で頭を下げた

露出した肩を震わせながら、女性の顔があがった

北見? 北見 鈴菜(きたみ れいな)だ

どうしてあんなところで働いてるんだ?

それなりのお嬢様だったのに、おかしいでしょ

コンビニに入る足を止めると、自然と北見のほうに俺の足が向いていた

ピンクのワンピースで、謝っている北見に酔っぱらっている男の手が腰に回ろうとした

俺は、今にも硬直して動けなくなりそうな北見の横に立つと、酔っぱらい男の手首を強く掴んだ

「触りたいなら、もっと金を出しなよ。それが嫌なら、帰れよ…エロいおっさん」

「な…なんだね、君は」

酔っぱらいの男が、俺を見上げた

俺のほうが頭が一つ分、身長が高かい

「争いごとが嫌いなんだよねえ。ただそれだけ」

俺はにっこりと笑う

「もう…こんな店に来てやるか!」

酔っぱらい男は、よろよろと千鳥足で駅のほうに向かって歩き出した

「はいはい、もう来なくていいよ。あんたよりマシな客が大勢いるからね」

俺はひらひらと手を振ると、転びそうになっている男の背中を見送った