「…あっ」

僕は前に立っている女性を見て、思わず声がこぼれてしまった

鈴木先生と僕の数メートル前に、翔の姉である千明が立っていた

千明も鈴木先生を待っていたのか

鈴木先生と目が合った千明は、深々と頭を下げた

3週間前に会ったときの千明とは、明かに顔つきが違った

憎しみに燃えるきつい目つきが消え、穏やかな表情になってた

良かった

青族とはもう縁を切ったって、マサやケンから聞いてるし…千明さんはもう、翔を失った辛さから脱出できたのかもしれない

「僕はこれで失礼します」

僕は、鈴木先生と千明にお辞儀をすると、反対方向に歩きだそうとした

「あ…片岡君、待って」

意外にも千明に、僕は呼びとめられた

小走りで近づいた千明は、僕の制服のすそを掴んでいた

「え?」

「この前のこと、謝りたくて。家に行ったら、マサ君がここにいるって教えてくれたから」

「この前のこと…ですか?」

千明がコクンと頷くと、笑顔を見せた

「月命日のときに、お墓で謝ろうと思ったんだけど。行き違いになっちゃったみたいで。もうお花が添えてあったから」

千明の言葉に、朝一で翔の墓に行った日を思い出した

月命日のときは学校に行く前に、翔の墓に花を添えに行くのが僕の中で決まりになっている