「僕は貴女に許して欲しいと頭を下げる気はありません。翔を助けられなかった事実を今でも悔いています。あそこで助けられたのは、僕一人だったのに、それが出来なかったのに後悔はしても、許しを請いたりはしません」

翔を助けられなかったことについてなら、いくらでも頭を下げる覚悟はできてる

そうしなければいけないと思ってる

でも『許してほしい』とお願いする気は僕にはない

人ひとりの命を奪っておいて、『許し』がもらえるなんてそんな甘い過ちではないと思ってるから

この想いが伝わらなくても、僕は許しは請わない

「こんな状況でも偉そうな態度ね。頭にくる。どうせお父様に守ってもらうんでしょ?」

僕は、仁王立ちしている千明に首を振った

守ってもらうつもりはないし、今夜のことを誰かに話そうとも思わないよ

僕の過去は、僕自身で処理をするしかないからね

僕の人生、誰かに預ける気もないし

「人を殺してるのに、どうしてそんなに堂々としていられるのよ!」

「コソコソと生きるほうが、翔に悪いから」

『ちっ』と千明が舌打ちをした

「何、それ。翔を殺しておいて、良いように解釈しすぎなのよ」

「そうかもしれません」

千明から見れば、良い解釈でしかないのかもしれない

それでも、僕は翔に背を向けるような生き方はできない

僕が生き残り、翔が死を選んだ

僕が生きて生活できるように…一緒に死を選ぶことだってできたのに

もっと言えば、僕だけを見殺しにすることだって翔にはできたんだ

足を滑らせて、落ちそうになったのは僕一人だったんだから

それを守ってくれた翔

必死に生きようともがいている僕たち二人を見て、「落ちろ」と騒いでいたのは、浩太と佑介の二人だったのを僕は覚えている