真面目なあたしは悪MANに恋をする

高い位置から振り下ろされる拳を、マサは片手で受け止める

寺島の腕がぷるぷると震える中、マサは涼しい顔をして拳を封じていた

「今日は珍しいね。逃げないなんて。小柄な俺だから、勝てると思った? そういう考え方が弱いよね。弱い者虐めが好きだろ? 勝てる相手にしか歯向かわない。勝てない相手には背を向けて逃げる。そういうのって『男』とは言えないよね」

「マサ君?」

寺島の背後から、葉南さんの驚きの声が聞こえた

葉南さんの隣にいる茉莉が、目を丸くして何度もマサの姿を確認していた

マサは、寺島の拳を手で覆い隠すとくいっと寺島の背中にまわした

「いてててっ」

「うん、痛いよね。帰ったほうがいいよ…てか、邪魔なんだよね」

マサがぱっと手を離すと、寺島が不服そうに舌打ちをしてからその場を離れていった

「あー、お腹減ったよね」

マサが椅子に腰かけると、鞄の中から紙パックの牛乳を取り出した

「え? 牛乳?」

葉南さんが、びっくりしたように声をあげた

僕は本を閉じると、マサの横顔を見た

「牛乳飲んで、カルシウムを取らないとね。一応、成長期だからさ」

「そう言えば、身長伸びたな」

「ん。年末に買ったズボンの丈がさ。つんつるてんだよね」

「それは言い過ぎだろ」

「そうでもないよ。かかとが見えるし」

茉莉が僕とマサのやり取りを一歩離れた場所でぽかんとした表情で眺めていた