パタンとドアの閉まる音がして、私は視線を動かした

マサが戻って来たのかと思った…けど、病室に入ってきたのは違う人だった

「鞄、持ってきたよ。ぼろぼろになっちゃったし、携帯も壊れちゃったけどね」

にこっと笑ってケンが私のカバンをちらつかせた

「あれ? マサは?」

「知らない」

私は首を振りながら、少しはだけていた病院の室内着を整えた

「なんだよ。しっかり看病するって言ってたくせに」

ケンは部屋の中に入ってくる

床に投げ捨てるように落ちているマサのトレーナーと靴下をじっと見ると、ぎゅっと奥歯を噛みしめたのがわかった

「無事で良かったよ。マサの家が、病院で助かったぁ」

怒りの色がちらっと見えたのに、それを笑顔で隠したケンはパイプ椅子に座ると私の手を握ってきた

私は手を引っ込めようと、腕に力を入れるが、全く動かない

「な…ナニ? どうしたの?」

私はケンの顔色をうかがう

何か違う

昨日までのケンとは違う

私の知っている仮面をかぶったケンじゃない

どこかおかしい

何か、怖いんだけど

「どうしもしないよ。マリを心配して来たのに、冷たいなあ」

「え?」

やっぱりおかしいよ

私を心配するわけないのに…葉南を中心に…ていうか、チョーって呼ばれている人を一番に考えている人なのに

私に言う言葉が嘘くさくないのが、すごく嫌な感じがする