―マサside―


白い天井に白いベッド…そして白い布団

見慣れた空間だけど、俺にとったら見たくない空間でもある

一人用の個室で、ぽたっとぽたっと点滴が落ちていく音をBGMにしながら俺は分厚いファイルに目を通している

「馬鹿だよね。こんな簡単な書類も書けないなんてさ」

俺は独り言をつぶやきながら、ファイルのページを捲る

ケンケンは殻に籠って、部屋に籠っちゃうし、俺は病院で付き添いをしないとだし

便利屋の事務所…だれが管理してくれるんだか

まあ、透理さんなんだろうけど、書類くらいは俺がやらないとだよね

俺は視線をあげると茉莉の顔色を見る

ケンの腕の中にいたときに比べて、たいぶ顔色がいいよね

輸血もしたし、点滴で栄養補給もしているし、目が覚めるのも時間の問題

あとは両親…だよね

『悪い冗談はよしてください。新手の悪徳商法ですか? うちの子に限って……』

茉莉の母親の言葉を思い出すと、俺はぱたんとファイルを閉じた

信じてもらえなかった

警察からじゃないと信じてもらえないのだろうか?

でも病院の名も言ってたのに

『うちの子がそんな土地に行くなんてあり得ませんから』って、あんたは娘の行動全部を知ってるのかよ…て言いたくなるよね

茉莉はもうガキじゃないんだし…親の知らない場所にだって行くよ

目が覚めて、親が来てなかったら…この人、きっと傷つくよね

できればケンケンだけでも…って思うのに、ケンもすっかりダメになっちゃってるし、困るよね

俺がいても、茉莉には迷惑でしかないはず