「どこに行くの?」

部屋を出ようとする私の手首を、ケンが怖い顔で掴んできた

「謝るんでしょ? 葉南に」

どうせ、私は悪者なのよ

何をしても、ダメな人間で、価値なんてない

所詮、幸せそうにしている他人に憧れて、マネをしようとして失敗した馬鹿な女

誰にも相手なんかされないんだ

「良かった。帰っちゃうのかと思った」

にこっとケンが笑う

みんな、葉南がいいのよ

葉南みたいな素直で、心から笑顔で笑える女がいいのよ

私みたいに、ひねくれた女なんか悪者にしかなれない

葉南の引き立て役しかなれない、ちっぽけな人間なのよ

ケンの腕を振り払うと、私は歩きだす

店内を歩いて、外に出ると駐輪場に停めてあるケンのバイクの横に立った

ケンは私にヘルメットをかぶせると、バイクに跨った

「ハナちゃんは、チョーの部屋にいるって」

「ふうん」

だってお泊りコースなんでしょ

楽しい一晩をどうぞって感じじゃない

私なんてさっさと謝ったら、ぽいっと捨てられるだけなんだ

「緊張してる?」

「なんで?」

「いや…顔が怖いから。緊張してるのかな?って思ってさ」

「緊張なんてしてない」

「そっか。そういえば、前から気になってたんだけど…女の子にしてはごつい腕時計をしてるよね」

私は時計をつけている手首を後ろに隠すと、反対の手で時計を覆った